2008年秋留台のトウキョウサンショウウオ生態調査報告

　1993年より毎年続けている秋留台地域のトウキョウサンショウウオ生態調査｡今年は10年ぶりの都内全域調査の一環として､3月29日(土)に例年通り青梅･日の出･あきる野の3地域で行われました｡年々春の訪れが早くなっているのが感じられますが､今年は桜が早かったわりにはそれほど産卵が進んでいるという印象はありませんでした｡過去のﾃﾞｰﾀを見てみると｡2000年のように春の訪れが遅かった年は3ｹ所合わせても100程度の卵のうしか確認されていない例からも言えるように､トウキョウサンショウウオの産卵は気象の影響を顕著に受けています｡

　今までは年ごとの天候との関連を見るたびに調査日程を3月末に固定してきましたが､より正確な産卵数や経年変化を把握するためには､今後は日程をもう少し後ろにずらしてほぽ産み終わる時期に設定した方がよいかもしれません｡ご意見をお聞かせください｡

　懸念されているアライグマによる食害については､調査地域では目立ちませんでしたが､都内全体では深刻なようです(全域調査の項参照)｡各地の概要については以下の通りです｡

• 青梅大荷田地域
  調査対象の3地域のうち最も広いエリアですが,全体が把握できているのは多くの参加者のおかげです｡昨年は減少傾向か?と心配された卵のう数も,例年通りの数が見られました｡一部では有志による生息環境の整備も進んでいます｡ただし,死因は不明ながら成体の死体が2頭見つかっており,多摩地域全体で見られるアライグマによる食害との関連が懸念されます｡

• 日の出平井地域
  ここ数年減少傾向にある平井丘陵では､ますます生息域が狭まっている印象が強<､全体の数はそれほど減っていなくても､特定の産卵地への集中が見られます｡環境整備も全く行われておらず､今回の調査地域では最も環境の悪化が進んでいるエリアかもしれません｡

• 五日市横沢入地域
  環境整備の進む横沢入では確認される卵のうが年々増えています｡ついに今年は日の出調査チームからの応援があっても参加者だけではカウントが終わり切らず｡翌日に五十嵐氏が取りこぼしを拾って歩くような羽目になりました｡横沢入で確認された卵のう数のMAXは約850ですから､環境整備が良い方向に影響していくと仮定すれば､まだ増える可能性もあります｡来年は広報にも力を入れて参加者を増やさなくてはと痛感した次第｡

　毎年秋留台地域の一斉調査が行われているトウキョウサンショウウオについては,都内では西多摩自然フォーラムの活動エリア以外にも,狭山丘陵･加佳丘陵･川口丘陵･八王子丘陵･多摩丘陵の里山に広く分布しており、各地でさまざまな団体や個人が調査や保全活動を進めています｡

　1998年に西多摩自然ﾌｫｰﾗﾑも参加して結成された『トウキョウサンショウウオ研究会』によって行われた20年ぶりの東京都多摩地区全域のトウキョウサンショウウオ生息状況調査には、のぺ150名以上が参加して 213ｹ所の産卵地、4701個の卵のうを確認しています｡その結果は『トウキョウサンショウウオは生き残れるか?　―東京都多摩地区における生息状況調査報告―(1999)』としてまとめられ｡全国の止水性サンショウウオについての調査･研究･保全活動のバイブルとして高く評価されています｡

　すでに前回の調査結果がまとめられた時点で,｢研究会｣としては今後も息の長い調査を行っていくことの必要性が認識されており,10年に一度は都内全域の大規模な調査を行うことが確認されていました｡今年はその10年目に当り、昨年より実施のための準備が進められて,各地で調査が進んでいます｡

　調査結果は首都大学東京理工学研究科の草野保氏のもとに集約され,まとめられる予定ですが、調査から見えてきた全体の傾向について簡単に紹介しておきたいと思います｡

• 乾燥化によって小規模産卵地が消滅
  とくに以前から減少傾向にあった日の出町の平井丘陵やそれに隣接するあきる野市の鯉川流域で顕著です｡単に水場が埋まってしまっただけで環境整備をすれば復活するのか,林の保水力自体が落ちているのかは不明ですが｡個人宅の池や水路で細々と代を重ねているのを見ると,より積極的に手を加えていく必要があるのかもしれません｡
  この他にも,圈央道のトンネル工事の影響と考えられる湧水の枯涸も報告されており,大きな産卵地も予断を許さない状況です｡

• いよいよ顕著になってきたアライグマの食害
  すでに神奈川県･三浦半島では,捨てられたペットが繁殖したと思われるｱﾗｲｸﾞﾏによって、産卵に集まった成体が集中的に食害され,壊滅的な被害が生じています｡
  多摩地域でもすでにアライグマの生息が確認されており,数年前からその食害を受けたのではないかと考えられる死体が見つかっていました｡今回の調査では青梅市の一産卵地で30個体にも及ぶ食害死体が見つかった他,八王子の川口丘陵や日の出の平井丘陵―大久野山地からも被害の報告があり、いよいよ深刻な状況となってきていることが分かりました｡
  
  なお,この調査についてはＮＨＫによる取材があり、4月22日夜9時からの｢ニュースウオッチ９｣で全国放送されました｡放送予定日が確定したのが前日だったため、｡多くの方にお知らせすることが出来ず申し訳ありませんでした｡{文責･川上}
  　

なおこの文章は、「西多摩自然フォーラムニュース112号に掲載されたものを転載したものです。

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