分布調査：1991年より卵嚢と幼生の確認を中心に生息調査を実施してきました。その結果、南部の房総丘陵のほぼ全域と北部の下総台地の東側（九十九里平野に沿って）、及び九十九里浜平野に生息地が確認できました（図1）。現地調査および文献から得られた生息情報は858地点で、生息地点の含まれる約１ｋｍ四方のメッシュでの総数は781となりました。これは、環境庁が行った第２回自然環境調査(1978年)と比較すると、新たな生息地の確認で分布域はむしろ広がったといえます。
図１．房総半島の地形とトウキョウサンショウウオの分布域（小賀野他 2008より）
生態調査：1995年より，房総半島の北東部に位置する下総台地の谷津でモニタリング調査を行いました．1997年には、斜面林に接する休耕田を借り受け，溝を掘って斜面林から浸み出す水がたまるようにしました。その結果、多くの産卵が確認できるようになり、この溝を中心に本種の生態調査を実施しました（図２）．その結果、東京都で行われた研究成果と比較して、一腹卵数が多い，産卵の始まりが早いなどの違いが見られました。
当グループでは，2006年から2007年にかけてこの地域での詳細な分布調査を行い，2008年には第2回トウキョウサンショウウオ一斉調査として再度全域の調査を行った．
その結果，合計64地点(一部に2005年以降の情報を含む)での生息が確認され，第一回一斉調査(1998年,及び1999年も含む)に確認された13地点から大きく増大した．
図２．産卵場の造成（小賀野他2010より）
生息環境：産卵地は、耕作水田、休耕田、用水路、小池など水田耕作に関連した止水が多くを占め、その他は畑や学校及び林道の排水用の側溝、蓮田、社寺の池、林内の湧水や沢の源流部などとなりました。東京都や栃木県で実施された調査では、水田耕作に関連した産卵地の割合が50％に満たないのですが（草野・川上 1999、青柳・林 2004）、房総半島では90%を超え、水田耕作の依存度が高いことがわかりました。中でも産卵数の多い場所は斜面林と水田の境に掘られた溝でした。
生息地の変遷：過去に調査を行った６１箇所の産卵地を、2004年に再び調査したところ，52箇所で産卵数の減少がみられ（図３），産卵の総数は3944個から1270個に減っていることがわかりました．また，卵嚢個数が50を越える規模の大きな産卵地は半数以下に減少し，全く産卵の見られない地点も数多くみられました．産卵数が減少した地点では，水量不足，水田の埋め立てや放棄など環境変化がみられるものがありました。
図３．産卵数の変化（小賀野他2008より）
保全に向けて：生息地のモニタリング調査、産卵場の維持管理に加え、教育・普及活動はとても重要であると考えています。トウキョウサンショウウオは千葉県の二次的自然を代表する貴重な生物といえますが、残念ながらその存在は多くの人に知られていません。そこで本種とその生息地への理解が重要と考え、高校生物の授業を通しての飼育実習、部活動における天敵の除去などの保全活動、地域住民に対する自然観察会（図４）などを実施してきました。
図４．観察会の様子
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