報告中の塩谷氏（原島氏撮影）

はじめに

　多摩丘陵は東京都の５市（八王子市、町田市、日野市、多摩市、稲城市）にまたがっているが、多摩ニュータウンなどの開発にさらされて少なくなっている。都心に近い日野市、多摩市はトウキョウサンショウウオの生存に必要な雑木林と湧水のセットが存在する自然丘陵（一般にこれを谷戸と呼んでいる）は消滅に近い状態といっても過言ではない。八王子市、稲城市も多摩ニュータウン区域内にあるので、開発が進行中で丘陵がどんどん崩され、湧水量も少なくなっている。その中で交通が不便な町田市西部にはまだトウキョウサンショウウオの生息に適している大きな谷戸がたくさん残っている。

　しかしトウキョウサンショウウオの生息に関しては、確かな生息情報がない上、きちんとした調査資料も見当たらない状況にある。そこで、トウキョウサンショウウオ研究会では、２年計画で町田市の生息調査を実施することとなった。調査はトウキョウサンショウウオ研究会メンバーが中心となり、１９９８年に文献調査および聴き取り調査（研究者、自然保護関係者、地元居住者）を行い、翌１９９９年の産卵期に主要な谷戸の実地調査を行った。

　結果はいずれの調査でも生息を確認できなかった。

調査結果概要

1. 文献調査
   • 生息を確認した文献は見出せなかった。
   • 主な文献
     町田市内生物生息目録（都立町田高校）、 多摩丘陵学　自然論　町田市民大学（町田市教育委員会）
     
2. 研究者・自然保護関係者に対する聴き取り調査
   • 生息情報は得られなかった。
     
3. 地元住民に対する聴き取り調査
   • 生息情報は得られなかった。
   • 聴き取り方法：
     地元に３０年以上住んでいると思われる９人に面接し、卵のうのカラー写真を見せて聴取。 しかし、多摩丘陵地域においてはこの方法は信頼性が必ずしも高いとは云えない。それは多摩丘陵で現在生息が確認されている地域でさえ、昔からの住民（元農民）に聴取してもトウキョウサンショウウオを知っている人は殆どいないし、見たこともないという人が多いという事実による。多摩丘陵ではトウキョウサンショウウオに名前さえないし、食料にしていたという事もないようである。つまり地元民には何の役にも立たなかったので関心はなく、目にも入らぬ虫けら、多分、カエルの変な卵くらいにしか思わなかったのではなかろうか。つい最近、自分の畑の湧水場所にトウキョウサンショウウオが産卵している事実を知らなかった上、それがトウキョウサンショウウオの卵のうであることも知らなかったという例さえある。
     
4. 実地調査

   　トウキョウサンショウウオの産卵期に主な谷戸１４個所を調査したが、卵のうは発見できなかった。

   • 調査方法
     調査者 トウキョウサンショウウオ研究会のメンバー６人（３年以上の生息調査経験者）が中心 となり、ボランティアが参加。メンバーは毎回２人以上参加。
   • 生息確認法
     産卵期に卵のうの有無で確認
   • 調査日
     １９９９年４月１日、８日、１２日、３０日。調査には４日を要した。
     
   • 調査地域と各谷戸の概要

     　聴き取り調査などからトウキョウサンショウウオの生息に適した環境が残っていると思われる地域・谷戸を選んだ。その結果、調査地域は町田市西部で、湧水が豊な谷戸がまだたくさん残っている境川や鶴見川の源流域とし、１４谷戸を４日かけて調査した。町田市では、谷戸の表現法は多様で、谷（ヤトと読む）、入、沢、久保（窪）などと記される。

     相原町地域（７谷戸）

     • 大地沢　境川の源流域で町田市の西端、関東山地と多摩丘陵の境界地域。ヤマアカガエル、ヒキガエルの卵塊。
     • 宝沢　神奈川県城山町に続く谷戸。タゴガエルの鳴き声、田んぼでイノシシの泥浴び。
     • 段木入　タゴガエルの卵塊、イノシシが栗林でミミズ掘り。
     • 権現谷　ホタル、ガビチョウ生息。田んぼでイノシシの泥浴び（夜間に約６頭が出没）
     • 梅ノ木沢 　養鶏場の汚水が川に入っている可能性あり。ヒキガエルの卵塊、ヤマアカガエル成体。
     • 中ガ谷戸　人手がかなりはいり、公園化している。
     • ？谷戸 　国道１６号バイパス東（京王御殿山ゴルフ練習場南西）の戸であるが、乾燥化が進み、湧水がなくなっている。

     小山町地域（１谷戸）

     • 田中谷戸     鶴見川源流湧水近くの谷戸。オタマジャクシ、カワニナ、サワガニが生息

     下小山田町地域（３谷戸）

     • 西山中     非常に奥行きの深い谷戸。シュレーゲルアオガエル（多数）、ドジョウ、キジ、ガビチョウ生息。
     • 小山田緑地     第２とんぼ池一帯。シュレーゲルアオガエル（多数）、トウキョウダルマガエル、
       オタマジャクシ（各種）、タイコウチ（４匹）が生息。
     • 滝ケ谷    乾燥化していて湧水がほとんどない。

     小野路町地域（２谷戸）

     • 大犬久保     奥行きのある谷戸で、湧水豊富、工作中の田が多い。ドジョウ、カワニナ、オタマジャクシ生息。
     • 万松寺谷    図師小野路歴史環境保全地域３３．２haの一画で、地元住により保全、管理されている。オタマジャクシ、シュレーゲルアオガエル、キジ、ガビチョウが生息。　

以上

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